弁護士コラム
2020.12.31
弁護士 後藤 敦夫
親にお金を貸している子がいる場合,その貸金は相続上どのように扱われるか
相続人の一人が被相続人に対し何らかの金銭債権を有していた場合,その金銭債権は相続においてどう処理されるのかという問題です。
前提知識として,2つ。
①可分な相続債務は,相続分に応じて分割承継される。
→金銭債務は可分なので,各相続人の相続分に応じて分割承継される。
②債権と債務とが同一人に帰属した場合,債務は消滅する(民法520条)。
→相続が開始すると,債務者である被相続人の地位が債権者である相続人に承継される。そうすると債権と債務とが同一人に帰
属することになる。結果,債務は消滅する。
上記セオリーに従うと,親にお金を貸している状態で相続が開始すると,その貸金は,貸していた相続人の相続分については消滅してしまうということになる。
相続人が子3人(相続分同じ)で,そのうちの一人が被相続人である親に600万円貸していたという例だと,お金を貸していた相続人は他の相続人に200万円ずつ請求できるものの,自分が相続した200万円は消滅してしまうことになる。
これだと貸していた相続人は,自分は600万円貸していたはずなのに相続により400万円しか回収できないとして不満をいうのではないだろうか。当該相続人としては,相続財産から先に600万円を自分がもらい,残った分を3人で分けるべきだと主張したくなるのではないか。
しかし,どちらの方法をとっても最終的な取り分は同じとなる。
以下,相続人が子3人,そのうちの一人が被相続人に600万円を貸していたという先の例に,相続財産が900万円であったという条件を加えて,実際に計算してみる。
相続人をA,B,C,そのうち親にお金を貸していた相続人をAとする。
①セオリーどおりに分けると,
A→(900万円×1/3)+200万円+200万円=700万円
B→(900万円×1/3)-200万円=100万円
C→(900万円×1/3)-200万円=100万円
②先にAが600万円を回収し,残りを3人で分けると,
A→600万円+(300万円×1/3)=700万円
B→300万円×1/3=100万円
C→300万円×1/3=100万円
以上のように,相続後の債務の履行が適正になされば,遺産から貸金を先に回収しても,しなくても結論は同じとなる。被相続人の生前に借金を回収していた場合もはやり結果は同じである。
単純な算数の話ですが,何となく面妖な気持ちになりませんか?
西播磨(たつの市,宍粟市,相生市,赤穂市,揖保郡太子町,佐用郡佐用町,赤穂郡上郡町),姫路の相続・遺産分割で弁護士をお探しなら,後藤敦夫法律事務所へご相談ください。