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2021.08.31

弁護士 後藤 敦夫

第三者からの情報取得手続申立の実務 金融機関

 債務者に対し裁判を起こし勝訴判決を得ても,債務者が任意に支払いをしてくれない場合がある。それならば債務者の財産を差押えようと考えても,債務者の財産がどこにあるのかわからなければどうしようもない。今回の話はこういった場合に行う財産調査についてである。

 最近新たに「第三者からの情報取得手続」という制度ができた。この制度は,判決等の債務名義があれば債務者の預貯金残高や勤務先に関する情報を取得できるというものである。もう少し具体的にいうと,金融機関や役所を第三者として裁判所に申立てを行い,当該第三者に対し債務者の情報を提供するよう命じる決定を出してもらう。そうすることで債務者の預貯金残高や勤務先を把握することができるのである。

 債務者の預貯金に関する情報については弁護士会照会という制度を利用しても同じような結果を得ることができる。しかし弁護士会照会制度では調査に2,3ヶ月かかってしまうことが多い。金融機関に回答を拒否される場合もある。さらに一部の都市銀行以外では支店を特定する必要がある。これに対し,この第三者からの情報取得手続は申立てから1ヶ月と待たずに金融機関から回答を得ることができる。支店の特定も必要ない。これから弁護士はこの制度を大いに活用するであろう。わたくしも先日初めてこの制度を利用した。とはいえ,まだ制度ができて日も浅い。この制度を利用したことがない弁護士も多いだろう。そこでわたくしの備忘の意味も含め,以下申立ての実務について書くこととする。

 

1 前提の事実

 債権の内容は,債務者により怪我を負わされた債権者の債務者に対する損害賠償請求権。金額は仮に100万円とする。債務名義は判決。判決後,民事執行法197条1項2号に基づく「財産開示の申立て」を行った。財産開示の結果は債務者不出頭により終了。

 

2 第三者(金融機関)からの情報取得手続の申立て

(1)参考にした資料等

 東京地裁及び大阪地裁のHPが充実しており,ほぼこれで足りる。補助的に「改正民事執行法における新たな運用」(家庭の法と裁判研究会編 日本加除出版株式会社)を使用。

(2)事前に準備した資料

ア 執行文の付与された判決正本及び送達証明書

 財産開示の申立て時にすでに執行文の付与された判決正本及び送達証明書を取得みであった。財産開示手続終了後,裁判所よりそれらの還付を受けておく。

イ 債務者の住民票

 職務上請求にて取得。債務名義(判決正本)記載の住所と変わっていないかを確認。

ウ 戸籍の附票の除票

 債務名義上の住所と現在の住所が異なっていたため,両者のつながりを示す戸籍の附票を取得。これも職務上請求により取得。

エ 財産開示手続実施決定及び財産開示期日調書の写し

 実施決定は裁判所より郵送されるが,期日調書は別途謄写する必要がある。期日調書には債務者が不出頭のため事件終了となった旨の記載がなされている。 

オ 金融機関の現在事項全部証明書

 法務局で取得。役員の数が多い都市銀などは相当厚くなる。今回照会した金融機関は20ほどであったため,すべての金融機関を合わせるとかなりの分量。

カ 委任状

(3)申立書作成

 裁判所のHPにある書式を必要な範囲で書き換え(例えば,大阪地方裁判所との記載を今回の申立先である神戸地方裁判所と書き換える),該当箇所にチェックをいれる。今回は民事執行法197条1項2号を要件とする申立てであるから,2号の箇所にチェックを入れる。

 「当事者目録」には,現在の債務者の住所を記載。債務名義上の住所とは異なっているため債務名義上の住所も併記する。また,〈債務者の特定に資する事項〉として,名の振り仮名,生年月日,性別,旧住所,旧姓を記入する。

 「第三者目録」には,照会する金融機関の名称,住所,代表者の氏名を記入する。代表者は「代表執行役」「代表理事」など現在事項全部証明書記載のとおりの役職の頭に「代表者」と加えて記入する(代表者代表執行役 ○○ など)。代表者が複数いる場合はそのうちの一人を記入すれば足りる。

 「請求債権目録」には,元金及び損害金を判決正本記載のとおりに記入する(今回は別途取り立てた分はない)。

(4)「財産調査結果報告書」の作成

 これも裁判所のHPにある書式を必要な範囲で書き換えたうえ,該当箇所にチェックを入れる。

 今回の該当箇所は以下のとおり。

・「過去3年以内の手続の確認」

 「はい」にチェック。疎明資料として「財産開示期日調書」と「財産開示手続実施決定」を選択。

・「その他の事情」

 「上記財産開示・情報取得後,債務者は転居していません。」「上記財産開示・情報取得後,債務者の新たな財産は判明していません。」にチェック。

(5)申立書提出

ア 申立書,当事者目録,第三者目録に捨印を押し,添付資料を揃える。

イ 添付資料は以下のとおり

 判決正本 送達証明書 照会先金融機関の現在事項全部証明書 財産調査結果報告書 財産開示手続実施決定 財産開示期日調書 債務者の住民票 戸籍の附票の除票 当事者目録・第三者目録・請求債権目録の写し(捨印のないもの) 委任状 

ウ その他の準備

・債務名義・送達証明書の還付申請書及び還付を請求する書類の写し。還付申請書はHPにあるものを使用

  ※住民票の還付を申請したが,後日裁判所より住民票の還付はできないとの連絡があった。

・印紙1000円

・予納金

  (第三債務者の数-1)×4000円+5000円  

・保管金提供書用の返信用封筒

 

3 裁判所からの補正依頼 

 申立書提出後2日ほどして,裁判所より,株式会社ゆうちょ銀行の「送付先」として「大阪貯金事務センター」を記載するようにとの補正依頼があった。補正した「第三者目録」を提出。

 

4 情報提供命令

 補正後約1週間で決定が出る。申立日からは10日ほどであった。

 

5 金融機関からの回答

 金融機関より情報提供書が裁判所に提出される。その後,裁判所から事務所に写しが送付されてくる。

 決定が出てから事務所に写しが送られてくるまでに3週間程度かかるところもあったが,おおよそ2週間以内にはほとんどの金融機関からの回答が揃った。「情報提供書」には,調査日,預貯金債権の存否,預貯金があれば預貯金のある支店名・口座番号・口座残高が記載されている。