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2020.09.24

弁護士 後藤 敦夫

超過特別受益者が相続分の譲渡を受けた場合の処理

 後藤敦夫法律事務所は,たつの市に事務所を構えているため,当事務所を利用される方の大半は,たつの市を含む西播磨地区(たつの市の他,相生市,赤穂市,宍粟市,揖保郡太子町,赤穂郡上郡町,佐用郡佐用町)にお住まいの方々です。姫路市在住の方からの依頼も少なくないものの,はやり西播磨地区在住の方からの依頼が圧倒的に多いです。  西播磨地区で多い事案の一つに相続案件があります。相続案件は,関連する問題や関わる人の数が多数にのぼることも多く,解決までにかなりの時間と手間を要することがままあります。見慣れない論点に直面することもしばしば。その都度弁護士は,知恵を絞り,工夫を凝らし,依頼者にとってのよりより解決方法を模索します。もちろんわたくしもそうです。

  今回は,これまでに扱った相続案件の中からやや珍しい事案を紹介します。この事案には,わたくしがこれまでに検討したことがなかった論点が隠れていました。わたくしは,当初その論点の存在に気付いていませんでした。手続きがかなり進んだ段階でようやくその論点の存在に気付き,冷や汗をかきながら(知恵を絞り,工夫を凝らして)処理したことをよく覚えています。特別受益,相続分の譲渡が絡む,ちょっとややこしい論点です。 事案は,簡略化したうえ,多少変更を加えております。

 

事案  

・被相続人は父,相続人は長女A,次女B,長男Cの三人。  

・相続財産は,預貯金及び現金が併せて3000万円。  

被相続人は,生前,長女Aに5000万円を贈与。  

相続開始後,次女Bが長女Aへ自身の相続分を500万円で譲渡。  

 

  以上の条件で,相続財産である3000万円をどのように分けるべきかが争われた。わたくしは長女Aの代理人である。

 

検討

 Aはかなり高額な生前贈与を受けているので,相続財産からの取得額は0。ここまでは問題ない。問題はこの後。考え方は2つ。

  1つは,遺産である3000万円をBとCとで1500万円ずつ分ける。BはAに相続分を譲渡しているので,Bの1500万円はAにいく。結果,AとCとが1500万円ずつ取得する(以下,便宜上「非吸収説」という。)。  

 もう1つは,Aの受けた生前贈与の額が過大であるため,Bからの譲渡があってもAが相続財産を取得することはない。結果,Cが3000万円すべてを取得する(つまり,Bからの譲渡分はAの超過分に吸収されるとの考え。以下「吸収説」という。)。

 

経過と結果  

 超過特別受益者が他の相続人から相続分の譲渡を受けた場合,どのように処理するかという問題である。相続問題を多く扱っていればたまに遭遇しそうな問題である。しかし,この問題を詳しく紹介している書籍は見当たらない。若干の解説が載っている書籍はあったが,ほんの数行程度の解説で,問題解決にはつながらなかった。しかも,どれも結論としては,譲渡を受けた相続分は超過特別受益の超過分に吸収される(吸収説)というものであった。  裁判所も当初,吸収説に傾いていた。そこで,以下の内容の主張をし,裁判所の説得を試みた。  

 

①譲渡当事者の意思は,譲渡人が本来受け取るべきであったものを譲受人に譲ることにある。しかし,吸収されるとなると,結果として譲渡分は譲受人とは別の相続人のもとに行くことになる。これは,譲渡当事者の意思に明らかに反する。

つまり,Bは自分がもらうべきであった1500万円をAにあげるつもりでいたはずだが,吸収説をとると,Bの1500万円は,譲受人であるAにはいかず,Cが取得することになってしまう。これは譲渡当事者であるAとBの意思に明らかに反する。

 

②相続分の譲渡は,譲渡当事者以外の相続人にはまったく関りのない偶然の事情である。そ の偶然の事情によって当該相続人が利益を受けることには合理性がない。

つまり,Bが自身の相続分をAに譲ったことは,Cにとっては偶然の事情に過ぎない。 単なる偶然の事情に過ぎないのであるから,そのことでCが利益を受ける理由はない。    

 

 上記の主張を書面,口頭で繰り返し説明した。裁判所も最終的にはある程度こちらの主張を認めてくれたように思う。既に審判に移行している事件だったが,裁判所主導で再度調停に付されることとなり,結果としては概ねこちらの主張に沿う内容(非吸収説を採用した場合の結果とほぼ同内容)で和解が成立,事件終結となった。